『枕草子』宮に初めて参りたるころ現代語訳と品詞分解・心情変化の全貌
平安時代中期の宮廷社会を鮮やかに切り取った随筆の最高峰『枕草子』。その中でも高校古典の教科書や大学入試、定期テストで必ずと言っていいほど取り上げられる最重要章段が「宮に初めて参りたるころ」です。才気煥発で知られる清少納言が、中宮定子のもとへ初めて出仕した際に見せた極度の緊張と戸惑い、そしてそれを受け止めた定子の気品ある優しさが、生々しいまでのリアリティをもって描かれています。
現代のビジネスパーソンが経験する「新入社員の初出社」や「新しい職場での孤立感・プレッシャー」にも通じる心理描写は、執筆から千年以上の時を経た今も色あせません。この記事では、受験生・古典学習者に向けて「宮に初めて参りたるころ」の正確な現代語訳とあらすじはもちろん、定期テストで狙われる品詞分解、文法・敬語のポイント、清少納言の劇的な心情変化の深層心理まで、徹底的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:初出仕の清少納言は極度の気後れと恥ずかしさで「消えてしまいたい」ほどの心理的パニックに陥っていた。
- 要点2:中宮定子は言葉で威圧することなく、絵巻物を差し出すなどの洗練された配慮で緊張をほぐし、絶対的な信頼関係の基礎を築いた。
- 要点3:定期テスト頻出の敬語(尊敬・謙譲・丁寧)の主体・客体識別や、助動詞の意味識別、心情を表す重要古語の暗記が攻略のカギとなる。
【原文・現代語訳・あらすじ】清少納言の初出仕と中宮定子の温かい心遣い
まずは章段全体の流れを把握するために、場面ごとの原文と現代語訳、ストーリーのあらすじを対照しながら確認します。この章段は大きく「夜の御前での緊張」「夜明けの情景と退出の逡巡」「中宮定子の絵巻物を通じた配慮」の3つの場面に分かれます。
【あらすじの全体像】
正暦4年(993年)冬、28歳前後の清少納言は中宮定子の後宮へ初めて出仕します。すでに人生経験を積んでいたはずの彼女ですが、華麗な宮中の空気と高貴な定子の威光に圧倒され、御簾(みす)の陰で身を縮こまらせて涙ぐむほど萎縮していました。定子はそんな清少納言を優しく導き、翌朝明るくなっても緊張で動けない彼女に対して絵を見せるなどして緊張を解いていきます。この出会いが、生涯にわたる強い主従の絆の出発点となりました。
場面1:初夜の出仕と極限の緊張
【原文】
宮に初めて参りたるころ、もののはづかしきことの数知らぬに、涙も落ちぬべければ、夜夜参りて、三位の御局の、御簾の際(きは)に立ち隠れて侍るを、御前には、火を少し掲げさせ給ひて、物語などせさせ給ふ。さるは、御几帳のうしろにぞ、おはしますなるべし。
【現代語訳】
中宮様(定子)の御所に初めて参上したころ、何もかもが気恥ずかしく恐縮されることが数え切れないほどで、今にも涙がこぼれ落ちそうなので、毎晩のように参上しては、(親族である)三位の君の部屋の御簾の端に身を隠して控えておりますと、中宮様の御前では、(女房に命じて)灯火を少し高く掲げさせなさって、お話などをさせてくださいます。そうは言っても、中宮様は御几帳の後ろにいらっしゃるのであるようです。
場面2:定子からの問いかけと畏怖の念
【原文】
「これ、取りて見よ」とて、絵どもを出だして見せさせ給ふ。「まづ、これを」とて、御几帳の際に出ださせ給へる御手など、世に知らず、いみじく、清らなり。わが身のつたなきほど、いと恥づかしく、消え入りぬべき心地のみして、ただ引き伏し侍るを、御几帳の上より見通させ給ふなるべし。
【現代語訳】
「これを取って見なさい」とおっしゃって、(定子様は)何枚もの絵を取り出してお見せになります。「まず、これを」とおっしゃって、御几帳の端からお出しになった中宮様のお手などは、この世のものとも思われないほど、大そう気品高く美しいのでした。私自身の至らなさや身分の低さが本当に恥ずかしく、(羞恥のあまり)消えてしまいたいような気持ちばかりがして、ただうつ伏して控えておりますのを、中宮様は御几帳の上から見透かしていらっしゃるのでしょう。
場面3:翌朝の退出と定子の細やかな配慮
【原文】
夜更けて、「まかでよ」と仰せらるれば、局に下りて、明くれば、夜の御殿(おとど)の御格子など上げに参るほど、いと恥づかしければ、やがて格子も参らで、昼つ方、御前に参りたれば、御几帳のほころびより、御硯(すずり)の蓋を出ださせ給へり。見れば、紙に「雲のうへも」と書かせ給へり。
【現代語訳】
夜が更けて、「(自分の部屋へ)下がりなさい」とおっしゃるので、局に下がり、夜が明けると、(女房の務めとして)寝殿の御格子などを上げに参上する際も、昼間の明るさの中で姿を見られるのがたいそう恥ずかしいので、そのまま格子を上げる役目も果たさずにいました。昼ごろに御前へ参上したところ、(中宮様は)御几帳の布のほころびの間から、硯の蓋を差し出しなさいました。見てみると、紙に「雲のうえも…」と和歌の上句をお書きになっていたのでした。

【定期テスト対策】品詞分解と重要単語・文法・敬語の完全攻略
定期テストや大学入学共通テスト形式の古典試験において、「宮に初めて参りたるころ」は文法・敬語の識別問題の宝庫です。特に敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)と敬意の方向(誰から誰へ)、そして助動詞の活用と意味は確実に得点源にしておく必要があります。
| 項目・文法要素 | 原文該当箇所と詳細 | テスト頻出度・出題パターン | 編集部の徹底攻略ポイント |
|---|---|---|---|
| 最高敬語(二重尊敬) | 「掲げさせ給ひて」「出ださせ給へる」 | 敬意の対象(誰に対する敬意か)を問う記号・記述問題 | 使役「させ」+尊敬「給ふ」の二重敬語。主語はすべて中宮定子。作者(清少納言)から定子への最上級の敬意。 |
| 謙譲語の補助動詞・本動詞 | 「立ち隠れて侍る」「引き伏し侍る」「参りたる」 | 敬語の種類(謙譲・丁寧)の判別および動作主の特定 | 「参る」は中宮の元へ行く謙譲語。「侍る」は作者自身の動作をへりくだり、中宮・読者に敬意を払う丁寧・謙譲用法。 |
| 助動詞「ぬべし」「なるべし」 | 「涙も落ちぬべき」「おはしますなるべし」 | 「ぬべし」の強意+推量訳、「なる」の伝聞・推定識別 | 「落ちぬべけれ」は完了・強意「ぬ」+推量「べし」で「今にも落ちてしまいそう」。「なるべし」は几帳の奥で見えないため推定。 |
| 重要古語の意味理解 | 「はづかし」「清らなり」「つたなし」 | 現代語訳の選択問題、現代語とのニュアンスの差異 | 「はづかし」は相手が立派すぎて自分が気後れする意。「清らなり」は最高級の華美な美しさ。「つたなし」は能力や身分が劣る意。 |
最重要箇所の品詞分解ダイジェスト
テストで最も狙われやすい「涙も落ちぬべければ」および「出ださせ給へる御手など」を品詞分解します。
- 涙(名詞) + も(係助詞) + 落ち(タ行上一段活用動詞「落つ」の連用形) + ぬ(完了・強意の助動詞「ぬ」の終止形) + べき(推量の助動詞「べし」の已然形) + ば(順接確定条件の接続助詞)
👉 訳:「涙も(今にも)こぼれ落ちてしまいそうなので」 - 出ださ(サ行四段活用動詞「出だす」の未然形) + せ(尊敬の助動詞「す」の連用形) + 給へ(ハ行四段活用尊敬の補助動詞「給ふ」の已然形) + る(存続の助動詞「り」の連体形) + 御手(接頭語「御」+名詞「手」)
👉 訳:「(定子様が)お出しになっていらっしゃるお手」
【心情変化の理由】なぜ清少納言は「恥ずかしさ」から「心酔」へ変化したのか?
本章段の最大の読みどころは、清少納言の「心理的パラダイムシフト(心情の劇的変化)」にあります。出仕当初、彼女を支配していたのは「圧倒的な自己否定感」と「居場所のなさ」でした。
当時の平安貴族社会において、中宮(皇后)のサロンは当代一流の教養、血統、美意識が交錯する最高峰の社交場です。清少納言は受領階級(中流貴族)の出身であり、宮中の洗練された上流貴族の女房たちに囲まれた瞬間、自らの装束や立ち居振る舞いのすべてが粗末に見え、「わが身のつたなきほど、いと恥づかしく、消え入りぬべき心地」と吐露するほどパニックに陥りました。
心理的安全性を生み出した中宮定子の「非言語コミュニケーション」
この極度のプレッシャーを氷解させたのが、中宮定子の卓越した受容力でした。定子は、縮こまる清少納言に対して「なぜ堂々と前に出ないのか」と詰問することは一切しませんでした。その代わりに取った行動が次の2点です。
- 視線のプレッシャーを逃す(絵巻物の提示):
直接顔を見つめ合う会話ではなく、「絵を見る」という共通の対象を介在させることで、緊張で凍りついた清少納言の心理的負荷を劇的に下げました。現代のカウンセリングやコーチングでも用いられる高度なコミュニケーション技法です。 - 知的な共同作業への誘い(和歌の投げかけ):
翌日、姿を見せるのをためらう清少納言に対し、定子は硯の蓋に古今和歌集の古歌「宮城野の木の下露は宿れども たまゐる露は消えぞあへぬ(雲のうへも…)」を引用したメッセージを忍ばせます。「宮廷の暮らしに慣れず消えてしまいたいと思っているのでしょうが、そんなに気後れしなくても大丈夫ですよ」という、機知に富んだ温かい励ましでした。
自らの教養を受け止め、かつ優しく包み込んでくれた定子の人間性に触れた清少納言は、恥ずかしさを乗り越え、生涯を捧げるに値する主君として定子に深く心酔していくことになります。

【古典・時代背景】歴史的事実から読み解く清少納言と定子の真実
『枕草子』を深く鑑賞する上で見落としてはならないのが、執筆当時の政治的背景です。清少納言が出仕した正暦4年(993年)当時、中宮定子は関白・藤原道隆の長女として、父の絶大な権力を背景に栄華の頂点にありました。定子のサロンは一条天皇の深い寵愛を受け、当代最高の文化サロンとして輝いていました。
しかし、その栄光は長くは続きませんでした。わずか2年後の995年、父・道隆が病死。翌年には兄の伊周・隆家が失脚する「長徳の変」が勃発し、定子一族は急速に没落していきます。定子自身も髪を落として出家を余儀なくされ、非業の死(長保2年・1000年、24歳の若さで出産時に崩御)を遂げるという過酷な運命を辿りました。
『枕草子』の随所に描かれる定子サロンのきらびやかで明るいエピソード群は、定子の没落後、彼女の生前の気品と輝きを後世に永遠に残すために清少納言が情熱を注いで書き留めたものです。「宮に初めて参りたるころ」に溢れるみずみずしい光と感動は、そうした悲劇的な歴史の影を知ることで、より一層深い陰影を帯びて読者の胸に迫ります。
【実態検証】テスト頻出問題の落とし穴と受験生の盲点
学校の定期試験や入試問題において、多くの生徒が失点しやすい「罠(トラップ)」を整理しました。これらを事前に把握しておくことで、記述式問題でも確実に満点を狙うことができます。
盲点1:「恥づかし」の主客の取り違え
現代語の「恥ずかしい」は単に自分が気恥ずかしい状態を指しますが、古語の「恥づかし」には「(相手が立派すぎて)自分が気後れする、相手に引け目を感じる」という意味が含まれます。テストで「何が恥ずかしいのか」を問われた際は、「自分自身の容姿や身分が至らないこと」と「中宮定子や周囲の女房があまりにも気品高く立派であること」の対比構造を記述する必要があります。
盲点2:主語の省略による敬語の読み落とし
古文特有の「主語の省略」により、「誰が誰に何をしたのか」が曖昧になりがちです。特に「御几帳のほころびより、御硯の蓋を出ださせ給へり」の動作主は中宮定子であり、受け取ったのが清少納言です。「出ださせ給ふ」という最高敬語が付いていることから、動作主が中宮定子であると瞬時に判断できるよう訓練しておきましょう。
【プロの結論】おすすめできる学習アプローチと慎重になるべき人の判断基準
古文読解を短期間でマスターするためには、自身の現在の習熟度に応じたアプローチの選択が不可欠です。
- 品詞分解から入るべき人(基礎〜共通テスト6割未満):
単語の意味や用言の活用が曖昧な段階で全体のあらすじだけを追うと、敬語問題や助動詞識別で必ず失点します。まずは1文ずつ品詞分解を行い、助動詞の接続と意味、敬語の方向を機械的に特定する基礎トレーニングを徹底してください。 - 時代背景・心情把握から入るべき人(国公立二次・難関私大志望):
文法構造が取れている学習者は、「なぜ清少納言はその行動を取ったのか」「定子の返答に込められた意図は何か」という文学的背景やサロンの政治的文脈に着目してください。記述問題での配点が高い「心情説明」「理由説明」でライバルに圧倒的な差をつけることができます。

【宮に初めて参りたるころ 現代語訳】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:清少納言は何歳ごろに初出仕し、なぜそれほど極度に緊張していたのですか?
A1:出仕当時の清少納言は28歳前後であったと推測されています。当時は一度結婚と離婚を経験しており、決して世間知らずの少女ではありませんでした。それにもかかわらず緊張したのは、中宮定子のサロンが最高権力者一族の集う最高峰の社交場であり、受領階級出身の彼女にとって身分差・教養のプレッシャーが想像を絶するほど巨大だったためです。
Q2:中宮定子が清少納言に絵巻物を見せた本当の理由は何ですか?
A2:極度の緊張で身を縮こまらせ、涙ぐんでいる清少納言をリラックスさせるための配慮です。対面での直接的な会話を避け、絵という共通の対象に視線を向けさせることで、心理的プレッシャーを和らげようとしました。定子の細やかな気配りと人間的包容力を示す代表的なエピソードです。
Q3:定期テストで最も出題されやすい最重要ポイントはどこですか?
A3:①「涙も落ちぬべければ」の品詞分解と現代語訳、②「出ださせ給へる」などの二重尊敬(最高敬語)の主語特定、③「恥づかし」「つたなし」などの重要古語の意味、④定子が硯の蓋を出して和歌を詠みかけた際の清少納言の心情変化、の4点です。これらは記述・選択問わず極めて高い確率で出題されます。
まとめ:古典から学ぶ信頼関係構築の本質
『枕草子』の「宮に初めて参りたるころ」は、単なる古文の試験対策用テキストにとどまりません。そこには、慣れない環境に怯える新参者の孤独と、それを優雅かつ的確に包み込むリーダーシップの理想形が鮮明に描き出されています。
言葉で叱咤激励するのではなく、相手の立場に立ち、視線を逃し、共通の教養を通じてそっと心を開かせる中宮定子の振る舞いは、現代の組織や人間関係における「心理的安全性の構築」そのものです。文法や現代語訳の知識をしっかりと整理した上で、千年の時を超えて息づく二人の魂の交流をぜひ味わってみてください。 (出典: 宮 に 初めて 参り たる ころ 現代 語 訳(Yahoo!ニュース))